あけましておめでとうございます(遅)、mistyです!
1月中の更新はないと思っていたのですが、久しぶりに短編小説が書けたので、うpします!(^^)!
短めなので、ごゆるりとどうぞ♪
@奇妙な食卓
奇妙な食卓
奇妙だ。
いや、それは分かっているのだが、何というかそうだからといって僕が目の前の現実世界を変えてみる勇気もない。
お皿のカチャカチャいう音と、連続的なる談笑。しかし、僕の隣の父親は相変わらず口少なめだ。それは僕の心をたゆまなく落ち着かせてくれる。
「じゃあ、お母さんもお父さんも本当に地元育ちなんですね。」
千鶴子が天使のような無邪気さで笑う。
「そうなのよ、だから私たちは都会の人たちの暮らしぶりとか全然知らなくて。田舎者で、ごめんなさい。」
「そんな! いえいえ、私の地元の方がもっと田舎ですから、ここは私からしたら都会そのものですよ!素敵な所じゃないですか。」
「あはは、無理を言わなくてもいいのよ。」
僕のお母さんは、ハイ・テンションだ。台所から、香ばしい磯の香り。台所は見えない―画面の左隅っこにあって、よく見えないのだ。ぼんやりしている。そういえば、画面が動かないのだ。僕の視点は、120度くらいの按配で、不思議なことにそこから一つも変わる気配がしない。
あさりの酒蒸しが運ばれてくる。貝殻置きの小さなお皿も一緒に。一同―僕と、四分の三の父親くらいは除いて―は甘美の空気にたちまち包まれる。
「どうしようかしら、ワインでも飲もうかしら、千鶴子ちゃん、ワインはどう?」
「えっ、頂いてもいいんですか? 申し訳ないです。」
「いやいやいいのよ、今ちょうどおいしいワインを取り揃えていてね。千鶴子ちゃんがお酒も大丈夫だったら、是非飲みましょう。」
「本当にいいんですか? じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて。ありがとうございます。」
「昼からお酒飲むの、大人の悪いくせー。」
弟が口をはさむ。運ばれてきたばかりのあさりにもう手をつけ、お箸を使わずに手でもってそのまま貝をとっては口に入れている。千鶴子と母親の苦笑。
「お父さんも、いる?」
「あぁ。」
短く、しかしまんざらでもなく上機嫌気味に答えるお父さん。
「じゃ、そこの茶色の棚から、赤の、この前買ったのを一本取って。」
何がおかしいのか、それは僕が食卓の中心の位置―横長の6人用のテーブルに、下座から弟、僕、お父さん、向かいをはさんで、千鶴子、お母さんが座っている―にいながら、会話に一つも参加していないという事実だ。厳然たる事実。あぁ、僕はなんて単純なことに気が付かずにいられたのだろう。
さらにもっと言えば―。千鶴子と、僕たち家族の間には、何の接点もなかったはずだ。接点という前に、会ったこと、話し合ったことすらない。第一、僕と千鶴子は付きあってすらいない―それは僕の一方的な解釈だが―の。とにかく千鶴子という女のことをお母さんにも弟にも、いわんやお父さんになど話すわけがない。それなのになぜ。なぜ、一同はこんなにも僕という仲介点を何ら必要とせずに盛り上がることができるのだろう。
もう一つ。この家は、死んで10年も経ったおじいちゃんとおばあちゃんの家だ。そしてこの家は、6年前にとり壊されているはずなのだ! 白い花柄のレースがかかった横長テーブル、ふかふかの背もたれの椅子、これらは今ここに存在しているはずがない。額が汗ばんでいるのが分かる。それでも僕は、事態が経過していくのを観察することしかできない。さっきから料理をちゃんと口にしているのかどうかすらも分からなくなってきた。多分、僕は気を違えたのだ。あはは。狂っている、狂っている…。千鶴子なんて、千鶴子なんて。魔性の女じゃないか。つまらない人じゃないか。何故、そんな人が、僕の目の前に平気で座って、僕の家族一同の中に平然と食事を交わしているのだ。最高に面白い。ここは、最高に面白い。傑作だ。
「じゃあ、こんな昼間からだけど。」
ワイングラスに赤の―本当にいい代物だ―液体を注ぎ終わり、ふぅと一息ついて母親が場をしきる。
「えぇ、本当にすみません。ありがとうございます。」
千鶴子は天使・・・悪魔と表裏一体の天使なのだ。悔しいが、彼女はこういう所でもさりげなく彼女の魅力をさりげなく発揮させる。僕は千鶴子のことが好きなのか、やはり。
「大人の悪いくせー。」
弟は、自分のところにはアルコールが回ってこないことで、ちょっと寂しい気分に陥っているのか、ちょっと不機嫌そうだ。それでも興味深そうに一同の会話と食事を見ている(当然、自分はガツガツ食べながら)。
「乾杯!」
カチャン、と4つ―いや、僕の右手も参加しているのだろうか。僕はさっきから、僕の身体とかけ離れているようなのだ。身体がとても遠くに感じられる、自分のものじゃない気がする、だけど自分の所に返ってくる―か5つかのワイングラスが小気味よく音を立て、交差する。そう、甘美な空気が、暖かい、奇妙な暖かい空気が僕たちを包み込んでいるのだ。
じりじりじり…。暑い、暑い。熱風のような風が食卓を取り囲む。夏、季節は夏だったか? 否、断じて。
「はぁ、おいしい。 千鶴子ちゃん、どう?」
「すっごい、とってもおいしいです! 甘いのに、しつこくなくて、苦みもありますね。」
「千鶴子姉ちゃんすごいねぇ。ワインの味が分かる人みたい。」
「あははっ、そんなことないんだよ。弘樹くんも飲んでみる?」
冗談交じりにワイングラスを弟の目の前にかざすふりをする千鶴子。
一同、再び食事と談笑に手をかかる。ここに秩序はない。
微笑のマリアよ、万歳!
(終)
***
@misty
[0回]
PR
COMMENT