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発信主義。:「抱えるくらいなら、発信【発進】せよ」 **** mistyの目に映る様々な社会現象を、考察・検討を通してグダグダ考えましょう。

フルハウスは嗤う

   
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ブログ更新☆奇妙な食卓

あけましておめでとうございます(遅)、mistyです!

1月中の更新はないと思っていたのですが、久しぶりに短編小説が書けたので、うpします!(^^)!

短めなので、ごゆるりとどうぞ♪

@奇妙な食卓

                     奇妙な食卓
 
 奇妙だ。
いや、それは分かっているのだが、何というかそうだからといって僕が目の前の現実世界を変えてみる勇気もない。
 お皿のカチャカチャいう音と、連続的なる談笑。しかし、僕の隣の父親は相変わらず口少なめだ。それは僕の心をたゆまなく落ち着かせてくれる。
 「じゃあ、お母さんもお父さんも本当に地元育ちなんですね。」
千鶴子が天使のような無邪気さで笑う。
 「そうなのよ、だから私たちは都会の人たちの暮らしぶりとか全然知らなくて。田舎者で、ごめんなさい。」
 「そんな! いえいえ、私の地元の方がもっと田舎ですから、ここは私からしたら都会そのものですよ!素敵な所じゃないですか。」
 「あはは、無理を言わなくてもいいのよ。」
 僕のお母さんは、ハイ・テンションだ。台所から、香ばしい磯の香り。台所は見えない―画面の左隅っこにあって、よく見えないのだ。ぼんやりしている。そういえば、画面が動かないのだ。僕の視点は、120度くらいの按配で、不思議なことにそこから一つも変わる気配がしない。
 
 あさりの酒蒸しが運ばれてくる。貝殻置きの小さなお皿も一緒に。一同―僕と、四分の三の父親くらいは除いて―は甘美の空気にたちまち包まれる。
 「どうしようかしら、ワインでも飲もうかしら、千鶴子ちゃん、ワインはどう?」
 「えっ、頂いてもいいんですか? 申し訳ないです。」
 「いやいやいいのよ、今ちょうどおいしいワインを取り揃えていてね。千鶴子ちゃんがお酒も大丈夫だったら、是非飲みましょう。」
 「本当にいいんですか? じゃあ、お言葉に甘えさせていただいて。ありがとうございます。」
 「昼からお酒飲むの、大人の悪いくせー。」
弟が口をはさむ。運ばれてきたばかりのあさりにもう手をつけ、お箸を使わずに手でもってそのまま貝をとっては口に入れている。千鶴子と母親の苦笑。
 「お父さんも、いる?」
 「あぁ。」
短く、しかしまんざらでもなく上機嫌気味に答えるお父さん。 
 「じゃ、そこの茶色の棚から、赤の、この前買ったのを一本取って。」
 
 何がおかしいのか、それは僕が食卓の中心の位置―横長の6人用のテーブルに、下座から弟、僕、お父さん、向かいをはさんで、千鶴子、お母さんが座っている―にいながら、会話に一つも参加していないという事実だ。厳然たる事実。あぁ、僕はなんて単純なことに気が付かずにいられたのだろう。
 
 さらにもっと言えば―。千鶴子と、僕たち家族の間には、何の接点もなかったはずだ。接点という前に、会ったこと、話し合ったことすらない。第一、僕と千鶴子は付きあってすらいない―それは僕の一方的な解釈だが―の。とにかく千鶴子という女のことをお母さんにも弟にも、いわんやお父さんになど話すわけがない。それなのになぜ。なぜ、一同はこんなにも僕という仲介点を何ら必要とせずに盛り上がることができるのだろう。
 もう一つ。この家は、死んで10年も経ったおじいちゃんとおばあちゃんの家だ。そしてこの家は、6年前にとり壊されているはずなのだ! 白い花柄のレースがかかった横長テーブル、ふかふかの背もたれの椅子、これらは今ここに存在しているはずがない。額が汗ばんでいるのが分かる。それでも僕は、事態が経過していくのを観察することしかできない。さっきから料理をちゃんと口にしているのかどうかすらも分からなくなってきた。多分、僕は気を違えたのだ。あはは。狂っている、狂っている…。千鶴子なんて、千鶴子なんて。魔性の女じゃないか。つまらない人じゃないか。何故、そんな人が、僕の目の前に平気で座って、僕の家族一同の中に平然と食事を交わしているのだ。最高に面白い。ここは、最高に面白い。傑作だ。
 
 「じゃあ、こんな昼間からだけど。」
ワイングラスに赤の―本当にいい代物だ―液体を注ぎ終わり、ふぅと一息ついて母親が場をしきる。
 「えぇ、本当にすみません。ありがとうございます。」
千鶴子は天使・・・悪魔と表裏一体の天使なのだ。悔しいが、彼女はこういう所でもさりげなく彼女の魅力をさりげなく発揮させる。僕は千鶴子のことが好きなのか、やはり。
 「大人の悪いくせー。」
弟は、自分のところにはアルコールが回ってこないことで、ちょっと寂しい気分に陥っているのか、ちょっと不機嫌そうだ。それでも興味深そうに一同の会話と食事を見ている(当然、自分はガツガツ食べながら)。
 「乾杯!」
 
カチャン、と4つ―いや、僕の右手も参加しているのだろうか。僕はさっきから、僕の身体とかけ離れているようなのだ。身体がとても遠くに感じられる、自分のものじゃない気がする、だけど自分の所に返ってくる―か5つかのワイングラスが小気味よく音を立て、交差する。そう、甘美な空気が、暖かい、奇妙な暖かい空気が僕たちを包み込んでいるのだ。
 
 じりじりじり…。暑い、暑い。熱風のような風が食卓を取り囲む。夏、季節は夏だったか? 否、断じて。
 「はぁ、おいしい。 千鶴子ちゃん、どう?」
 「すっごい、とってもおいしいです! 甘いのに、しつこくなくて、苦みもありますね。」
 「千鶴子姉ちゃんすごいねぇ。ワインの味が分かる人みたい。」
 「あははっ、そんなことないんだよ。弘樹くんも飲んでみる?」
冗談交じりにワイングラスを弟の目の前にかざすふりをする千鶴子。
 
一同、再び食事と談笑に手をかかる。ここに秩序はない。
微笑のマリアよ、万歳!
 
(終)
***

@misty
 

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沈黙の教室

こんぱら! 遅い時間に更新すみませぬ、mistyです(*^。^*)

今回は、短編小説です。 ちょっとくせのある、それでも小説です苦笑

それではどうぞっ。

沈黙の教室
神田 初朗
 
 沈黙、しかしそれは装いで、実際には計算された範囲外の規則破りが密やかにおこなわれている。見抜けない、教師。否、形式上は完全なる<支配―隷属>の類比関係に置かれているのだ。生徒=子供たちはいちおうとはいえ、沈黙から離脱することがほとんどできない。
 どこの誰が作ったのか分からない机の上で、子供たちは教師の言葉を聞く。一人の生徒は、どこの誰が作ったのか分からない消しゴムを片手に持って、熱心にノートに書きとめた文章を消す。
―先生、トイレに行きたいです。―
 ある生徒が、どこの誰が作ったのか分からない椅子から立ち上がって、いかにも差し迫った口調で言う。
―我慢しなさい。授業はあと少しで終わります。―
―でも先生、もう無理そうなんです。―
―どうしても、ですか?―
―はい。―
―ならば、行ってきて、すぐに戻ってくること。よろしい?―
―はい!―
 教師の許可を得た生徒は、一目散に教室から、教師から逃れる。逃れる? 否、逃れてはいない。彼は、教師の呪術から逃れることはできない。教室に依然として居ること、それが生徒の果たすべき義務。
 私たちは、<教室>なる空間から、一生逃れることはできない。一生。そう、私たちは少しも、自由ではないのだ。
 
トイレから先ほどの生徒が戻ってくる。と同時に、授業の終了を告げるチャイムが鳴る。
―今日の社会はこれでお終いです。M・ハイヤー、あなたは授業終了の間際にトイレにいった罰として、次の国語の時間のはじめに朗読をしてもらいます。―
 M・ハイヤーはうなだれる。ただ黙ってうなずく。
―それでは、休憩です!―
 教師がそう告げるや否や、子供たちはその爆発的な躍動力をもってして、どこの誰が作ったのか分からない椅子をなぎ倒す勢いのごとく動き回る、しゃべりだす。がやがや、べらべら。エネルギーに溢れている。教室の窓からは、午後の力強い、しかしそれでいて優しい日光が彼らを射す、彼らの本質―自然的生―を照らし出すかのように。ある生徒は、どこの誰が作ったのか分からない赤色の鉛筆を、くるくる回す。ある男子生徒たちは、どこの誰が作ったのか分からない筆箱を、ボール代わりに投げ飛ばす。ある女性生徒たちは、どこの誰が作ったのか分からない黒生地の制服のスカートをひらひらさせながら、リズミカルなダンスを披露する。
 
 ドカン!! 唐突に、大きな音がして、ざわつきは一瞬にしてゼロになる。何事かが起こった。一人の生徒が、早くそれに気付いて、指を指す。
―穴、穴が開いた!―
 他の生徒と教師も、同時にその生徒のゆびさす方向を見る。そこには、どこの誰が作ったのか分からない教室の天井の一部分の空洞があった。空洞を埋めていたはずの、どこの誰が作ったのか分からない天井の一部は、跡形もなく消えていた。ついでに言及しておくと、空洞の先はどこまで行っても気の遠くなるような暗黒の闇が待ち構えている。
 きゃあ、大変だ、こわいよう。生徒たちは口々にするが、教師はがぜん冷静だ。
―みなさん、静かに。天井の一部分が壊れてしまったようですね。今から、修理屋さんを呼びます。そう時間もかからないでしょう。皆さんは、心配する必要は全くありません。―
―でも、先生!―
―なんですか、M・ハイヤー。―
 先ほどの、トイレで罰をくらった、少々内向的な性格の彼は、それでもおずおずと生徒を代表して教師につっかかる。教師のあまりに鋭い視線は彼を少しだけ畏怖させる。
―て、天井は、なぜ壊れてしまったのですか? なぜ、空洞ができたのですか? 抜け落ちた部分は、どこにいってしまったのですか?―
―M・ハイヤー。―
 教室中の誰もが、この教師とM・ハイヤーとの対話に固唾を飲んでいる。
―2度目の罰です。あなたには、学校が終わった後、窓ふきをしてもらいます。―
―ですが、先生…―
―M・ハイヤー、あなたが今私に聞いたことは、学校規則で禁じられています。<教室>に関する一切の事項を、生徒は聞いてはならない。 あなたは、この決まりを、知らなかったとでも言うのですか、M・ハイヤー?―
―そ、それは…。でも…。―
―なりません、M・ハイヤー。天井に関する事柄、それはすなわち<教室>の事柄です。したがって、あなた方は私たちにそのことを一切聞いてはならないのです。分かりましたか。皆さん、M・ハイヤーだけでなく、皆さんも同じですよ。私は修理屋を呼びます。修理屋が来て、天井を元通りに直します。それだけです。皆さんは、何もしなくていいのです。分かりましたか?―
 悲痛に近い沈黙、強制された服従が擬制される。M・ハイヤーはうなだれる。教師は、まるで何事もなかったかのように、修理屋に電話するため教室を後にする。
 
やがて教師は教室に戻り、何事もなかったかのように、休憩の終了を告げて、授業を始める。沈黙。M・ハイヤーの、抑揚に欠けるなんとも退屈な朗読がはじまる。
 授業が進行している間に、どこの誰だか分からない、妙にうすよごれた顔の修理屋が来て、勝手に天井の修復作業をはじめる。プロレタリア階級に独特の、あの例の型にはまった善的な笑顔。授業は続く。時刻もほどほどに、修理屋は作業を着実に終える。軽く一礼して、去っていく。
 
 どこの誰が作ったのか分からない天井が、戻ってくる。どこの誰が作ったのか分からない椅子に座りながら、生徒は反抗する手段を全て奪われて、教師に隷属する。
 <支配―隷属>の類比関係の授業は続く。沈黙の、教室。
(了)
 
 

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おかえりなさい

こんぱら、mistyです。
今回は、短編小説の投稿です。 何のひねりもないけど、甘口の文章を試食あれ( ^)o(^ )

@「おかえりなさい」

おかえりなさい
神田 初朗
 ほだされるように、暑かった。今では夕涼みくらいの、ちょうど心地良い気温に巻かれて、例のあの何ともいえない、暖かみのある疲れにひたっている。私は家のドアの鍵を取り出して、ガチャリという確かな音とともに、住み慣れた場所に戻る。
 ふぅっ、部屋の中も、一段と熱気が渦巻いていて、初夏だというのにさっそくクーラーをつけなければならない。そろそろ扇風機の導入を本格的に考えるべきなのだろうか―いや、順番は本来逆でなければならないのだが。私は、街に出掛けてお買い物した様々な様式の紙袋―白地に紫色の斑点模様がついているものや、かわいらしいピンクのリボンがちょこんと付いている小さめの包装紙、タワーレコードの真っ黄色のビニールなど―をひとまず床に降ろす。クーラーのリモコンのスイッチを押すと、ほどなくしてそののろまな機械は低い音を立てて作動する。おろしたてのふわふわのフェイスタオルを取り出し、うっすらにじみ出てくる汗を拭きとる。
 時間は5時前。もっと遅く帰る予定だったはずが、何故だかはやく家に帰りたいと思った。いや、思わされてしまったのだ―誰かに、或いは何物かに。私の馴染みでない街の中で、強く、馴染みのある場所や人のことを考えていた自分。こうして部屋に戻れば、喧騒もないし、だいいち派手でない。派手でないということは私にとっては案外重要なことで、というのも派手であるものは、そうであるべきちゃんとした理由を備えているべきなのだ。無意味に物事を何でもかんでも派手にするのはよくない。私の、中心的スタイルの一つ。
 
ルネ・クレマンの『禁じられた遊び』を借りたので、時間を見計らいつつ鑑賞しよう、そう私は心に決める。クーラー直下、機械が放つ独特のひんやりした空気を浴びながら、テレビ下のDVDプレイヤーにそっとディスクを載せる。テレビ画面からはトップの画面が現れ、私は迷わず”“All Play”を選択した。思えば、休日の夕涼みに、こうして映画を観賞するというのも、なかなか贅沢なことだ。物質的なそれではなくて、精神的な豊かさ。そういうものの、大切さを、噛み締めることができていることに、自分でも少し驚いた。
 映画が始まって、ひじょうに憂いのある曲が流れる。もうこの時点で、私は世界観の虜になりかける。『禁じられた遊び』を観るのは、これで2回目になる。白黒映画のいい所の一つは、その白黒から、実態的な色彩を、自分の感性の中で自由に決められることだ。ポレットの着ている洋服はきっとこんな色―すこしだけ薄汚れたホワイトに違いない―、ミシェル愛用の帽子はきっとこんなカラー―茶色か、時には赤色に違いない―、といった具合に。
 そうか、僅か10分足らずで、重要なキャラクターが<死>に見舞われるんだっけ… 気が付いたらテレビスクリーンは、ドイツ軍によるフランスへの空爆の渦中のシーンを過ぎたあたりにきていて、思わず私は「一時停止ボタン」を押した。ちょっと、涙せずにはいられないからだ。横にあるティッシュを2,3枚乱雑に取り出して、図らず出てしまっている涙を吹く。情けないと思いつつも。
 
  …私の記憶の回廊は、ふたたび今日の町でのお買い物のシーンに優しく突きあたる。このDVDを借りたレンタル屋さんがある通りは、近郊では有名なスポットでもあった。私も、レンタル屋に行くたび、その通りを歩く。
 通りの名前を、イチョウ通りという。いたってシンプルな名前の付け方で、要するに通りの両脇がイチョウの樹々でずらりと埋め尽くされてるのだ。初夏の季節には、これでもかというくらいの、緑々しい笑顔を見せてくれる。厚みがあって、どちらかというと強気のタイプのそれ。特別好みの植物でもないが、それでもよく通いよく慣れ親しんでいる、イチョウ通り。そこに集まる人たち。交差点で点滅する信号機。排気ガスの音。そして、イチョウ通りを包み込む、優しい風と空気。
私は、やっぱり少し高揚しているんだと思う。なんでだろう。
 イチョウ通りは、いつもあの人と一緒に歩いていた。今、「あの人」はどこかに消え去っていって、それとともに、イチョウ通りも、少しだけ雰囲気が変わった。
 程なくして、私は映画の続きを観はじめた。泣くだけ泣いた後は、さすがに冷静になって、私は物語が終焉に近づくまで画面に食い入るように鑑賞していた。たまたま残っていたポテトチップスのかけらと、冷たいお水を口にしながら。ひとときの贅沢。
 
 そうして、私は、「今の人」を待っている。「今の人」の帰りを。これでもかというくらい、強く。確かに帰ってくる「今の人」のそれを。
 時計は7時を回り、映画もちょうど観終わった。よかった、計算の範囲内だ。これから少し急いでご飯を作らなくちゃ。お米は炊いてあるから、副食を。「今の人」がほころんでくれるような、なるたけおいしいと言ってもらえるような、そんなご飯を。
 『禁じられた遊び』の余韻に浸りつつ、私はキッチンに立ち、ハンバーグ―メニューは案外、思い付きで決まってしまうものだ―の調理に取りかかる。いつものように、バラエティ番組と、CDオーディオをつけっぱなしにして、私は調理の作業に専念する。何の為に? なんだろう。
 何の為に。 「今の人」のために。
 口から勝手に、Cymbalsの『My Brave Face』のサビが流れてくる。あぁ。
 人を待つのだ、それが、こんなに愛おしくて。
 
 玄関から、綺麗で的確な、チャイムの音が鳴るのを待ちながら。
(了)

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「穴」

 こんぱら! mistyです。

明後日から、ゴールデンウィークですね! まぁ僕は、今までのダラダラした生活を反省するという意味合いも含めて、GWも勉強しますよええ。 がんばろっと。

今回は、書き下ろしの短編小説です! ちなみに「神田 初朗」というのはmistyのペンネームですので、あしからず。

訳の分からない文章に見えますが笑、何とか雰囲気を味わっていただけたら幸いです。

@「穴」

神田 初朗

 私は閉じる。あぁ、安息の世界。それは私に、同時に暗鬱をもたらしてくれる。

 目を閉じる。口をつぐむ。耳を塞ぐ。豊かなヴェールで身体をゆったりと包み込む。

 <全テノ穴ヲ、閉鎖セヨ。>

私は、安らかな眠りに抱かれている。母の温かさを思い出す。父の厳格さを忘却する。

 奥へ、奥へ。内部の、そのどんどん奥へ。

深みに踏み込んで、私は息もできない程の、マリンブルーやダークグリーンに染められた中心に導かれる。

 誰かが私を呼んでいる。認識はできるのだが、何と言っているのかは分からない。つまらない、些末な言説。

 深海へ、深化して、私は痛くもない、切なさもない、空っぽの心を胸に刻み込む。懐かしい声。固められた記憶。変化のない、無限の静けさ。

 あぁ、多分、ここにおいて私は死んでいるのだ!

 

 私は開ける。たちまち澱んだ空気が外へ放出される。素早くて賢い粒子と、長ったらしい関係性への参加が、私の内にどんどん流入してくる。

 目を開ける。口を開く。耳を澄ます。汚れた幾つもの衣服を剥ぎ取って、裸同然で私は世界の現前に立ち向かう。

 <全テノ穴ヲ、開放セヨ。>

私は、目もくらむばかりのまばゆい光に飲み込まれる。そこではスピードと、フレキシビリティと形容されるあの一連の暴力性が要請されるのだ。

 彼が、私を呼ぶ。彼女が、私を揺り動かす。私は、別の私に呼びかける。

 あぁ、目まぐるしくて。速く、速く、そして美しくて。

何物かが、私も知らないうちに、私の中にどかどかと入ってくる。それらの幾つかは依然として私の内部にとどまり続け、やがて私と一体となる。

 そうなれば、世界は私なのだ。大胆な言い方をすれば、私は世界となる。

外へ、外へ、拡がって、傷ついて。

 しばらく、私は私を見つけられない。オレンジとウルトラマリンブルーの色彩で形成されるこの環境の中において、全ては手の内をさらけだし、結合し、離反し、また進んでいく。私など、存在しない。いや、そうではない。

 あぁ、多分、ここにおいて私は生きているのだ! 絶え間ない動きの中で、形を変容させながらも、私はどこかで息づいて、そして誰かがそれを見て「お前は、お前だよ」と指示してくれるのだ。そして、<>は存在しうる。

 

 閉鎖と開放の狭間。幾つもの美しさと汚さを、幸福と不快を、宝物と傷跡をめぐって、流動する。誰も彼も、存在しないかのように。

 <世界ヨ、流動セヨ。>

 

(了)

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符合へのかろやかな挫折

こんぱら!mistyです。

えー、またまた短編小説を投稿します笑 これ、ブログの意味なしてるんだろうか…笑
「符合へのかろやかな挫折」。 とても速く読めるものだと思うので、お楽しみください♪

***

符合へのかろやかな挫折
 
 僕はちょうど、ジョディー・フォスター演じるクラリス・スターリングが、レクター博士の元を訪ねるために、彼の居る精神病院へと案内されるワンシーンを思い浮かべていた。もっともそれは全く的外れな空想だったし、あんなに重々しい病棟とは似ても似つかないけど。日曜日の大学校舎は、とにかく人気がなく、その空虚な香りをあたりにじゅうぶんに漂わせている。
 大学の研究室での簡単な用事を終えて、僕は一階の渡り廊下まで出て、立ち止まった。灰色のコンクリート仕立ての壁や床は、確かに物語ることがらは少ないのだけれども、僕にある種の安定した柔らかさを与えていた。静けさは、美徳の一つだ、と思うから。
 教授の不敵な笑みに関しては、特に思うこともない。彼と僕との、ひどくつまらない一つの約束を、無難にこなしただけだ。日曜日、ガラガラになった大学校舎の中で一人楽しそうに自分の研究室にこもる教授は、確かに楽しい人生を送っているのかもしれない―。僕の予想できる範囲をはるかに超えた所で。でもそれは、今の僕にとっては何らの影響も及ぼしはしない。今後とも、彼との継続的な関係は続いていくのかもしれないが、それだからといって日頃教授のことを頭の片隅に置きたい願望が起こるわけでもない。
 
さて、図書館にまた戻ろうかな。灰色の床ばかり見つめていた僕は、ふっと上体を起こす様にして体勢を立て直した。視点の右端に、女子高校生―中学生でないのは一目して判別ができるほどの容姿―たちの姿がとまった。
 「えーっと、どこだっけ…」「よく分かんないよ。」「あっちの方向がよかったんじゃない?」
オーソドックスな紺色の制服に、厚手のイエローオーカー色のコートを羽織って、様々のマフラーを首に巻きつけている。背も同じくらいの高さの娘たちが3人集って、日曜日のお暇な大学キャンパス内を、うろうろしていた。
 一応受験シーズンではあるし、はっきりとしたことは分からないけどそれ絡みのことなんだろうな、こんな人気のない日に、本当に珍しい。そう思って、僕はポケットからシルバーの鍵を取り出し、自転車のロックを外した。
 その時僕はふいに、「大学」の英語の綴りがどうだったか、気になった。univercityだったか、universityだったか、univerrcittyだったか…。気にし始めると、それが止まらなくなる。大学生にもなって、「大学」の綴りくらいパッと出てこなくてどうするんだ。
 辞書に頼れば一発だし、でもそんな短絡な解決法で処理をしたくなかった。しょうがないので、自転車にまたがったまま、僕はすぐ近くにある大学掲示板の粗探しをはじめた。「大学」の英語表記があれば、それで問題は解決する。
 リシュウシンセイのお知らせだとか、試験の答案についての注意事項だとか、日本語のみで書かれた非常に面白くないチラシばかりが、そこには無計画的に貼り出されているだけだった。英語表記の紙媒体は、どうやらすぐ近くにはないのかもしれない。
掲示板の前でそうやってうだうだとしていると、さっきの女子高校生たち―3人組―が、ちょうど僕の目の前を通り過ぎた。そのうちの一人の、黒色の長い髪が印象的な娘と瞬間目が合った。純粋で、透明な瞳だったと思う。決して近くない存在。
当然僕は、その娘たちが持っている、脳内にある情報検索システムの利用を考えないわけにはいかなかった。「大学」の綴りが分からない。そんなことは、繰り返す様に辞書で調べてしまうのが一番手っ取り早い。でも、この娘たちに聞けば…。“大学受験で忙しいと思うんだけど、「大学」、ユニバーシティの綴りってどうだっけ?”の入力を行えば、それなりに正当な答えが返ってくるかもしれない。
4年前のあの頃の僕たちと、会話するのなんて、いつ以来だろう。
 
 高校生たちは、べらべらと話を進めながらも、どこかの方向へ向かって歩みをしっかりと進めていた。掲示板の前で立ちすくむ僕は、そこに緊張も不安も一切なく、この問題解決―「大学」の正確な綴りを知りたい―をどうしたものか、と悩むばかりだった。女子高校生たちは、ゆっくりと、慎重に、離れて、遠ざかってゆく。
 
 そうして僕はしばらくたって、いよいよ携帯を取り出した。ネットに接続し、トップ画面から「大学 英語 綴り」と入れて検索をする。すると、どこかしらの大学の携帯サイトにつながって、○○ university の画面に辿りついた。
 あっけらかんとして、こんな小さな度忘れは10秒もすれば解決をする。それに、早く図書館に戻って中断していた作業を再開もさせたかったし。
 自転車のハンドルを握って、キャンパスの門に向かった。そこで、おそらく最初で最後の、女子高生たちとの邂逅を目の当たりにする。相変わらず笑いの絶えない彼女らに、僕は、何かしら声をかけようとした。
「こんにちは、大学を探検しにきたんですか?」
だけど、ついにこの言葉は僕の口から発せられることなく、僕が彼女らの意識を引く前に彼女らは僕が進むべき方向とは違う道に、歩みを寄せていた。僕は門のほうを真っ直ぐ向いて、ややもして自転車を勢いよく漕ぎだした。
 
 彼女らの頭の中にあったであろう、彼女たち自身の「大学」の綴り方は、それでも気になった。もし僕らの会話が成立していたならば、彼女たちはどんな答え方を示してくれただろう。
 今日は曇り空。空虚なキャンパスの中で、人間は閉鎖的で同時に開放的な関係の中をあわただしく過ごしている。(終)
 
 
***

misty @

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ガラスの街(超短編小説)

こんぱら、mistyです!!

ていうかなんか今、あのマイケル・サンデルがテレビに出て相撲の八百長問題について対話形式をとりながら講義してます!

なかなか面白いことも遣ってくれるもんだ、日本のTV業界!


さて、ここからはアレなんですが、misty、いよいよブログのネタもなかなかないので、超短編小説をうpしたいと思います爆 ww

一体何のブログか分かんないぜ・・・クレイジー。
出来たてほやほやです!20分くらいで仕上げた、本当に短いストーリーです。

お楽しみください♪ 「ガラスの街」


***
ガラスの街
 
 ちょっとした、でも確かに冷たい温度で私の中心をひどくしばりつける、胸の痛み。
もう、これ以上何も傷つきたくないというのに。
 
 寒空が街を支配する、その地面に近い所で、私は自転車を漕いでいる。一心不乱に、時に漕いでることなど忘れてしまいそうで、でも思い返したらとにかく一生懸命にペダルに体重を乗せて。私を襲うこの確かな痛みと共に。
 グリーンの塗装に包まれた自転車のボディも、この暗闇の中ではその存在感をあらわすことはない。むしろ、冷たさと暗さの圧倒的な空気に飲み込まれてしまっていて、その色すら物悲しい表情を作っている。少なくとも今の私にはそう見える、そしてそれ以外の他には何もない。
 自転車が、信号の目の前で止まる。赤のライトの点滅は、大した意味もなく視覚をいたずらに刺激する。何を、何を止めろっていうの? 私の痛みを? 私の存在を?
 こんな片田舎のこんな遅い時間帯なので、人どころか車通りでさえ少ない。それでも赤信号に止まらざるを得なかったのは、痛みを抑えたくて抑えたくて、それでも止まらないこの冷たさをどうにかしたかったから。哀しくて。
 
 人間関係は、少なくとも今までの人生の中ではうまくやってきた―そしてこれからも―はずだった。だから、私は、裕のことが理解できない。少なくとも、私の知っていた、あの優しくて情緒深い性格だったはずの、裕ではない。
 
―「お前に、何が分かるんだ!」―
 
 私に何が分かるかって? 全部よ、全部。私に見えるものの範囲の中でなら、全部。そう言いきれるくらい、私は裕の事を分かっているつもりだったし、優しくしてきたはずだった。
 なのに。
 
―「お前に、何が分かるんだ!」―
 
 その言葉を放った時の裕の表情を思いだそうとするが、できない。頭と心が拒否しているのかもしれない。思い出すな、敵の顔を。
 敵。たった一瞬で、友達と言うものは敵になってしまうものなの?
 私たち人間の関係というものは、そんなにも儚くて、そして哀しいものなの?
 
 信号が緑に切り替わって、またペダルに足をかけて、自転車を漕ぐ。
今日はどうやら風が吹かない。街そのものが、静まり返った感じ。わずかに、CDレンタル屋さんのけばけばしい電光板の光や、暗闇にひっそりと生える植木の緑たちが、私の視界と心にただただ意味もなく流れ込んでくるだけ。
 
 …痛い、っ。
 
 身体と心というものを完全に分けることができないのだとしたら、心の痛みは身体の痛みに決して劣ることはないだろう。裕との―一瞬の―亀裂を目の当たりにしてしまった私は、多分未だにその事実の重みを把握できていなくて、それでも衝撃だけが私の頭の中をかけぐりまわって、そうして冷たさと暗闇の深みに接している。
 
 痛みを抱えた自転車は、ガラスでできた冷たい街の中を、一秒一秒すすんでゆく。


***

ご愛読ありがとうございました。

みsty @

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私にとっては、新しい試みです。

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プロフィール

HN:
misty
年齢:
35
性別:
男性
誕生日:
1989/03/19
職業:
学生
趣味:
読書/音楽鑑賞/音楽制作/小説執筆/美術館巡り
自己紹介:
学生をやっております。
*好きなモノ・コト
自分哲学すること。
音楽を聴くこと、観ること、演ること、造ること。
映画鑑賞。静かな空間。くたびれた電車の中。美術館。
江國香織。遠藤周作。田口ランディ。

*苦手なモノ・コト
喧噪。口論。理論づくしの人。
早起き。健康的な生活。
デスメタル。精神性のない形骸的ロック。


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